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英国政府は2025年11月11日、動物実験を代替法へ置き換えるための包括的戦略「Replacing Animals in Science Strategy」を[公表]{target=“_blank”}した。臓器チップや3D細胞モデル、遺伝子ベースアッセイなど、多様な非動物技術(Non-Animal Technologies:NATs)の活用を体系的に進める内容で、この中にはAIによる毒性予測や計算モデルも含まれる。 戦略の実行を支えるため、政府と研究機関は総額約7,500万ポンドを投じる。AIを含む計算科学的手法は、初期スクリーニングの効率化に加え、薬物動態の検討段階でも補完的な役割を担うとされ、代替法を広げるうえで「重要な柱」と位置づけられている。 ## 2026〜2030年で段階的に移行 今回公表されたロードマップには、具体的な削減目標が盛り込まれた。 - 2026年末まで:皮膚刺激、眼刺激、皮膚感作などの安全性試験を非動物法へ全面移行 - 2027年まで:ボツリヌス毒素(ボトックス)強度試験におけるマウス試験を終了し、DNAベース評価法へ切り替え - 2030年まで:犬・非ヒト霊長類を用いた薬物動態(PK)試験の依存度を削減 ただし政府は、代替法が「同等の科学的妥当性と安全性を提供できる場合」に限り動物使用を停止するとしており、実施可能な領域から段階的に置き換えていく現実的なアプローチを取る。 ## 代替技術の実用化が追い風に 今回の戦略策定の背景には、代替手法が実用段階へ近づいていることがある。 - **臓器チップ** :ヒト細胞で臓器環境を再現し、薬物応答を高精度に評価 - **AIモデル** :分子構造や実験データから毒性を予測し、動物試験前のスクリーニングを効率化 - **3Dバイオプリント組織** :肝臓や皮膚などの組織を立体的に再現し、化学物質の影響評価に利用 これらの技術には英国企業・研究機関が積極的に取り組んでおり、産業競争力の強化にもつながると期待されている。 ## 英国の動物実験の現状 内務省が公表した2023年の統計では、動物を用いた科学的手技は約268万件で、マウスやラット、魚類が大半を占める。猫・犬・霊長類の使用は全体の0.2%程度と少ないものの、医薬品開発における安全性評価など、依然として役割の大きい領域が残る。 特に犬・非ヒト霊長類のPK試験は、医薬品の臨床前評価で重要とされてきた領域であり、2030年を目標とした依存度の削減は、医薬品開発プロセスにおける大きな転換点といえる。 ## 完全な代替にはなお課題 一方で、動物実験の完全廃止には技術的・規制的な課題が残る。 臓器チップやAIモデルでは、免疫系を含む全身の長期的な複合反応を完全に再現することは難しい。また、規制当局が代替法を受け入れるには、精度や再現性、妥当性の検証が不可欠で、導入には時間を要する。動物研究支援団体 Understanding Animal Research も「代替技術は進展しているが、多くの領域ではまだ動物を使わない方法が存在しない」と指摘している。 ## 資金投下と実行体制 今回の約7,500万ポンドの投資は、研究開発だけでなく、規制受け入れや教育、データ標準化などを含む包括的な体制整備に充てられる。 - 政府の6,000万ポンド:代替法の検証拠点や規制支援センターの整備 - 1590万ポンド(MRC・Wellcome Trustなど):ヒト由来 in vitro モデルの研究支援 政府は関係府省・研究機関・製薬企業・動物福祉団体で構成される委員会を設置し、進捗指標(KPI)を設定して透明性を確保する方針だ。英国政府は今回の戦略を「世界で最も詳細なロードマップの一つ」と位置づけ、科学技術と倫理の両面から「動物実験のない研究」への移行を進めていくとしている。 :::box [関連記事:AIによる新薬設計 米中でヒトへの臨床試験を開始] ::: :::box [関連記事:LLMの「ハルシネーション」が創薬研究に貢献—ドレスデン工科大学の研究チームが発表] ::: :::box [関連記事:科学的発見プロセスを自動化するAIエージェント「Robin」、実際に新薬候補を特定— FutureHouseが初の成果を報告] ::: :::box [関連記事:中外製薬・ソフトバンクなど、AIエージェントとLLM活用で新薬の臨床開発プロセスの迅速化を目指す共同研究を開始] ::: :::box [関連記事:Google DeepMind AIタンパク質予測ツール「AlphaFold 3」を発表、AI創薬への応用に期待] :::
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